A heart to be in love " 恋する心 "


目をつぶってもあの人が思い浮かんできて。

耳を塞いでもあの人の声が聞こえてきて。

例えどれだけ離れていようとも心にはあの人が居る。

そしてお互いに何を言わなくても想い合っている。

それが人と付き合うって事であり、愛し合うって事だと私は思う。

以上。私、中村 美咲の恋愛観。



My love to you
               for  きょん様



あ〜……やばい。


久々に風邪だ……私。


朝起きた時は体がだるいかな〜って感じだけだったんだけど……学校来てから完璧に悪化してる。
一時間目はなんとか大丈夫だったけど……しかも今は数学だし余計に頭痛くなりそう。


体力が人並み以上にあるからかどうかわからないけど、あんまり風邪にならない私。
で、その分一度風邪になると相当ひどい症状が出る。しかも咳はあんまり出ないのに物凄い熱が出る。


「うぅ……」


あ゙〜……頭がガンガンする〜……
しかも関節まで痛くなってきたような……

「ん……?」

ふと前髪を払おうとした私の手には汗が少しついていた。
確かにだんだんさっきから暑くなっているような気がする。


汗かいてるんだな〜……私。
制汗スプレーとか持ってきてたっけ?
無かったら誰かに借りればいいかな……
汗臭くなったらどうしよう……啓吾も居るのに……


なんだか視界も意識も虚ろになってきて、いろんな事が頭を巡ってくる。
気が付けば息も荒くなっていた。



と、その時だった。


「では、この問題を……中村さん」
「は、はい!」

不意に先生に呼ばれ、驚いて勢い良く立った私を目眩が襲ったのは。


「ぁ……?」


あれ……?


なんだかグラグラする。

気分悪い。




あ……倒れそうだ……私。

なんだか景色が回ってる……

私が倒れたら、啓吾……心配してくれるかな?

啓吾が心配してくれるならいっそ……このまま ―――






「美咲!!!!!!!!!」
「……あ、あれ……私……」







……倒れてない……

自分が啓吾に抱きしめられているのだと気付くのに数秒掛かった。



「美咲!? 大丈夫か!?」
「ん……ちょっと……グラグラ……する」


痛いよ……啓吾。

そんなに強く抱きしめたら……

ほら、皆見てるって……いつも私がしたら全力で逃げる癖に。

こうゆう時だけ……ずるいよ……啓吾……

だけど……

だけど……

「啓吾……ありが……と……」
「美咲? 美咲!!」


薄れ行く意識の中、啓吾の私を呼ぶ声が心地よく響いていた。









「ん……」

見上げた天井は教室とは違ってきれいな白一色だった。
すぐにそこは保健室だとわかった。
視界の右端に先生の姿が見えた。

「あら? 大丈夫?」
優しく微笑みかけてくれる先生。
とても綺麗な人だ。
「あ……はい。 えっと……」
「良く寝てたわね、もう四時よ?」
「えぇ!? あっ!! け、啓吾は!?」

時間にも驚いたけど、それよりも啓吾の事が気になった。

「あら、そこに居るじゃない。あなたの左手を握ったまま」
「えっ……?」

指差された先には私の左手を握り締めたまま私の寝てたベッドに突っ伏す形で眠ってる啓吾が居た。
凄く穏やかな顔で静かに寝息を立てている。なんだか無防備な啓吾の顔って……ヤバイ。

「付き合ってるの?」
「えっ、は、はい……」
自分で言うのはどうって事ないけど、他人に……しかも先生に言うのはなんだか気恥ずかしい感じがする。
「羨ましいわ〜、あなた達」
「え!?」

何か注意されるのかと思ったら、先生は思いがけない事を言った。
え……羨ましい?

「あ、あの……」
「その子……城山君、あなたが倒れてからずっとここにいるのよ。もちろんお昼も食べないで」

私の言葉を遮って先生は言った。

「えっ……?」
「私も帰りなさいって言ったんだけどね、どうしてもって聞かなかったの。
 こんなになるまで気付いてやれなかった自分の責任だって言ってね」
「そ、そんな事……ないのに……」
「この子からすれば一緒だったんでしょうね。……すごい悔しそうに言ってたわ」
「け、啓吾……」

不思議と涙が出てきた。
眠っていても強く強く握られた啓吾の手が全てを物語っているような気がした。

「あまりにも真剣だったから何も言い返せなかった……」
「そう……ですか……」
「それ程思われてるあなたは本当に幸せね」
「はい……でも、私は啓吾に幸せにしてもらってばかりなんですよね……
 啓吾も幸せにしてあげなくちゃいけないのに……」

本当に……ぼそっと。
心から素直に出た言葉だった。

「うふふふふ……」
「えっ、な、なんですか!?」
「いや、城山君も似たような事言ってたから……つい……」
なんだかとても楽しそうな先生。
顔がどんどん赤くなってきているのが自分でもわかる。
「何て……言ってたんですか?」
「こんな事で返せる程、中村さんからもらった幸せは小さくない。だって」
「啓吾……」

なんでこんな時ばっかりそんなに優しいの?
私……また好きになっちゃうじゃん……

「本当に……あなた達は羨ましいわ。じゃあ、また何かあったら呼んでね?」
「あっ、ありがとうございます……」

青春って良いわよね、って言い残してわざわざ先生は保健室から出て行ってくれた。
本当に良い先生だと思う。また暇があったりしたら来よう。


「啓吾〜?」

まだ眠っている啓吾の頬を触ってみる。
少しビクっとしてまた規則的な寝息が聞こえてきた。

「…………」

啓吾が起きてないのと、周りに人がいないかとりあえず見回してから一言。

「私もこんな事一つで返せるなんて思ってないけど……ありがと、啓吾。私はこんなにも幸せだよ?」

そして……啓吾の頬にキスをした。




My love to you : 私の愛をあなたに






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