次の日。
私は又同じ時間、同じ場所に立って電車を待っていた。
入学したばかりで学校内を歩き回る勇気も無く、今日はあの人の事ばかり考えていた。
友達に絶対おかしいと言われたけど何にもないよと言い通した。

「はぁ〜……」

ほんと、馬鹿な事してるな。私。
同じ時間にまた都合よく現れるわけでもないのに……
また自己嫌悪に陥りそうになる。

「ん……?」

携帯が鞄の中で鳴っている事に気が付く。



― あんた今日の態度どうゆう事よ? ―



「ゔあ……」

見なければ良かった。
今日の私の態度に納得してないらしい友達からで、絵文字が一切使われてないあたり相当な怒りが見え隠れする。
ぶっちしちゃうと後がうるさそうなので、なんでもないよとだけ返した。

― ♪〜〜 ―

「うわ〜……」
物凄い速さで帰ってくるメール。皆どれだけ打つのが早いんだろう?



― なんでもないわけないよね? ―



「…………」

うわー。私の意見は全部無視なのかな? ……そうなんだろうな。
聞いてるけどこれは絶対に断定してる。

…………


…………


…………


……携帯を壊すような勢いでメールを打つ友達の姿が明確に浮かんできた。



「うっわ〜……何その敵意剥きだしてますけど何か? みたいなメールは?」



へっ……?



「お〜い、聞いてる?」



私の目の前で手をパタパタと降る男の人。それは昨日のあの人だった。


「ひゃああああああああああああああ!!」
「ええええ!?」

二人で叫び声を挙げてからふと気が付いて周りを見回す。
数人に睨まれていたのですいみせんと、頭を下げておいた。

「君って面白い反応するね?」
「えっ、いや、あの、その、この?」

ダメダメだよ〜……私。
たぶん顔も昨日ぐらい……いや、それ以上に赤いんだろうな〜茹蛸みたいな感じなんだろうな〜……等と軽い現実逃避を起こしてみる。

「名前は?」
「えっ?」
「名前だよ、名前。君のを教えて?」
「あ、えと……小泉……朝霞……です」
「へぇ〜、可愛い名前じゃん、あ……俺は平井 亮平 [ ひらい りょうへい ] ね」
「は、はい……」

名前を可愛いなんて言われたのは初めてで、どうしていいかわからず上手く返事できなかった。
というかそれ以前に上手く会話が成立しているのかさえ微妙なところだと思う。

「小泉さんてわかりやすいって言われるでしょ?」
「えっ!? ……あー……はい」
「昨日もあからさまだったしね?」
「うっ……それは……」

忘れてください、と言おうとした瞬間 ―――

「ははは、ごめんごめん、冗談だよ」

ポンポンと頭を叩く平井さん。

「――――!!」

ただでさえ上がっている体温がさらに上がった。














「小泉さんってどこで降りるの?」
「えと……平井さんの二つ次の駅ですよ」

電車に乗って数分、やっと落ち着いて会話が出来るようになった。

「へぇ〜、あんだけうつむいてたのにチェックしてたんだ〜」
「ゔ……」
「ははは、そんなに怒らないでよ」
「い、いえ……そんな事は……」

落ち着いて会話が出来てから気付く。平井さんて、意地悪だ。
だけどすぐに笑って謝る。それも結構卑怯だと思う。
だって……平井さんの笑顔は……素敵……だから。
あー……考えれると余計心臓がドキドキしてきた。

「あっ、そうだそうだ。 小泉さんってなんか部活とかする予定あり?」
「い、いえ……しません……よ?」

なんで聞くんだ、私。

「あ、え、えと、平井さんは何かしてるんですか?」
「ん? 俺? 何にもしてないよ」
「へぇ〜以外ですね」
「あー……それ良く言われるだよね〜肌の色がちょっと黒いせいで」
「やっぱり……」
「あ、何その言い方?」

私の顔を覗き込んでくる平井さん。
は、離れてください!! とは言えず固まる私。
ただでさえいつもの倍近くで動いているであろう心臓がさらに活発に動き出す。

「さて、そろそろだな〜」
「……えっ!?」

いつのまにか平井さんが降りる駅まで来ていた。

「んじゃあ、又ね」
「あっ、はい……また……」

平井さんと話せて嬉しかった分、なんだがとても寂しかった。
私……重症かも。

「あのさ」
「は、はい!」
「もし良かったら明日も同じ時間に乗らない?」
「えっ……」
「こっちに帰る人少なくて寂しーし、一緒に帰ろうよ」
「は、はい!! もちろんです!!」

つい力んでしまう私。
だけど、ここで頷いておかないと、絶対に後悔すると思った。

「じゃあ、又ね」
「は、はい……」
「あっ、そうだそうだ」

電車を降りて急に何かを思い出したように振り向く平井さん。

「わかりやすいのはいい事だと思うけど、顔が真っ赤のままにするのは止めた方がいいよ……朝霞ちゃん?」
「えぇ!? あの、えぇと……」
「じゃあね!」
「ちょ、ちょっと……」

私の声は無情にも閉じたドアの音にかき消されてしまう。





うぅ……絶対に平井さんて確信犯だ。
















その後。
私と平井さんはほぼずっと一緒に下校している。
ちなみにいつも待ち合わせはホームになっている。学校で待ち合わせて噂になりたくないし。
まぁ、たまに平井さんから掃除から逃亡中に捕まりましたとかメールが来たりするんだけどね。
っていうか、言ってくれれば……待つんだけどね。私。


あぁ、そういえば最近友達から良く言われる。


「彼氏できたんでしょ!? 紹介しなさいよ!!」


……例によって断定&脅迫的なのは目をつぶる事にする。
まぁ、私の答えはいつも同じなんだけどね。



実はまだ私は平井さんに告白してない。
っていうか未だに平井さんを前にすると妙にドキドキするのが直らない。

「あっ……電車行っちゃった」

冗談まじりでジュース奢ってもらいますからね、とメールを送る。
すぐに現在全力疾走中とだけ返信が来た。
平井さんらしいと思わず顔が緩んでしまう。







確かに恋人とかもいいなぁと思うけど、

今はまだのこの距離でもいいんじゃないのかな? と私は思うわけである。





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