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A heart to be in love " 恋する心 "
――― Summer
「あっ……」
「降り出したな~……まっ、今日は傘持ってるからええけどな~」
薫とは進行方向の違う電車に乗りこんでしばらくして、美咲と晴菜は突然窓につき始めた雨を見てそう言った。
「せめてもう少し待ってよ~……私次なんだから~」
「ドンマイやな。彼氏君にでも電話したら?」
「え~……たぶんまだ遊んでるし」
ぼそっとそう言う美咲を見て晴菜は不思議に思った。
Episode 13-ss
「なんやまだ気ぃ遣ってるんか?」
「当たり前じゃん」
「へえ~あんたらでもそうなんやな」
「まあね。それにお互いに言いたい事だけ言ってたら大変でしょ」
「そりゃそうやな」
あははと笑う晴菜を見て美咲もつられて笑った。
と、美咲の携帯の啓吾専用に登録している着信音が鳴った。
慌てて携帯を開く。
「どうしたん?」
「啓吾からメール……どうしたんだろ?」
携帯を見ていた美咲の顔がぱっと明るくなる。
「彼氏君、なんて?」
「今さ駅で雨宿りしてるんだって。待ってるから一緒に帰ろうって」
「へえ~……良かったやん」
「うん」
はにかむような笑顔を見せる美咲。
いつも少し達観した恋愛観を持っている美咲のイメージとは掛け離れた純粋無垢なその笑顔。
同姓ながらも純粋に可愛いと晴菜は思った。
「っと……」
ちょうど図ったように電車が減速を始める。
停車する前から美咲は立ち上がり、ドアの前に立った。
「そんな慌てんでも、彼氏君は逃げへんって」
「うるさいな~」
茶化すように言う晴菜に美咲は怒ったように返す。
そうは言いつつも美咲の様子はそわそわしていて、待ちきれないのが良くわかった。
「じゃあな。彼氏君とお幸せに」
「うんうん。バイバイ」
ドアが開くと同時に美咲は駆け出して行った。
(なんだかんだで、美咲も女子高生やな)
美咲の心の中が垣間見えた事に、そんな当たり前の感想を抱く。
走り去る美咲の後ろ姿に一人になった事を実感し、少し物悲しさを感じてため息をついた。
(彼女が出来たらどうすんの? ……かぁ……)
昼間の薫との会話を思い出した。
馬鹿な事を言ったと晴菜は後悔して、奥歯をかみ締める。
彼女が出来てしまったら、どうするもこうするもない。どうしようも無いのだ。
それは自分が良くわかっているはずなのに。
(それでも、かおりんには気付いてほしかったんよ。かおりんアホやからなぁ……)
また一つため息を落として携帯を開く。
電話帳のその他フォルダを開いて、中に一つだけ入っている名前を選択した。
(まぁ……)
竹内 雄也 [ たけうち ゆうや ] ―――
(アホなんは私も変わらへんけどな……)
自虐的に鼻で笑いつつ画面しばらく見つめていたが、やがて電源ボタンを押して携帯を閉じた。
ゆっくりと電車が加速を始め、やがて規則的なリズムで振動が伝わってくる。
外では、雨が勢いを増して降り続けている。
まるでそれは晴菜の心を映しているようで。
静かに……それでいてしっかりと、雨の音が聞こえる。
晴菜はその音に一人、耳を傾けた。
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