ムカツクあいつ。 | |
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「朝霞……?」 振り返った先に居たのは紛れも無く中学時代の私の親友で。 人懐っこい笑顔も変わってなくて。 外見もあんまり変わってないのに…… 「久しぶりだよねー! 元気だった?」 「えっ、あぁ……うん。朝霞も元気だった?」 確実に、何かが違う。そう思った。 そのままの成り行きで、ファミレスに二人で入った。 適当に注文して、さっそくお喋りに入る。 「そっちの学校……どう?」 「んー、凄い田舎でさ。電車の本数が少なくて通学が大変なんだー。まぁでも楽しいよ」 「そうなんだ……」 「麗華は? 学校、どう?」 「んー……」 一瞬、谷本の姿が頭をよぎった。 反射的にマズいと思ってしまう。 「楽しいよ。ちょっと勉強キツ目だけど……」 なんとか、誤魔化した。 まぁ、上手く笑えてる自信なんてないんだけど。 「うわ、それヤダね」 「でしょ? そっちはどんな感じ?」 「んー、うちは普通かな。やる事やってれば何も言われないよ」 「いーなー。うち学校はそんなんじゃないよー」 「まぁ文句言っても仕方ないでしょ? お互いにさ」 「うわ、すっごい大人っぽい発言だ」 女の子だからかな? 一旦話が膨らむと、ベラベラ喋り続けちゃう。 「朝霞さ、何かあった?」 「ん? 何って?」 ちょうど料理が来て、話が切れたから聞いてみた。 私の知ってる朝霞はもうちょっと……んー……言葉に言い表せられない…… 「なんかさ、雰囲気違ったから」 「そう? あー、でもそうかも知れない」 熱々のリゾットをスプーンで突きながら、はにかむように笑う朝霞。 同姓だけど、純粋に可愛いと思う。 「彼氏……できたんだ……夏休みの前に」 「ええ!! 何で!?」 思い切り叫んだ私に視線が集中する。 うわ……恥ずかしい…… 「何で……言われても……」 「あ、あぁゴメン……えっと、どんな人?」 「一つ年上でさ、亮平さんって言うんだ」 「へぇ〜! それでそれで?」 「えっと……」 そうして朝霞は教えてくれた。半分は惚気だったけど。 まぁ、それも仕方ないか。 朝霞はどうやら去年の春、入学したての時期にその亮平さんって人と出会って、恋したらしい。 しかも話を聞くかぎり、朝霞の一目惚れだったみたい。なんか、いいな〜そうゆうの。 それで夏休み前までずっと片思いしていたけど、やっとそれが実ったとの事。 「で、どっちから告白したの?」 「えっと……わ、私……」 「ええええええ!!!!」 本日、二回目だった。 「ま、まぁ……今は幸せにやってるんだ……」 「ま、まぁ……今は幸せにやってるよ……」 店員さんの目が痛いのでボリュームを少し小さめに。 「へぇ……いいなぁ……」 話してる最中の朝霞の顔がヤケに眩しく見えた。 「麗華は……もう、大丈夫?」 「…………」 心臓が高鳴る。 直接的には言わなかったけど、きっと先輩の事だ。 「……河本先輩の事?」 あえて口に出す。 今ではもう、先輩の声とか、表情とか。はっきりとは思い出せなくなった。 入学初日。見事に迷った私。 挙句のはてに友達まで見失って。途方にくれてた時に先輩が助けてくれた。 「どうした? 迷ったの?」 先輩にはありふれた、たくさんの出来事の中の一つかも知れないけど。 私にはそれが、"トクベツ" だった。 「あ、あの……実は……」 事情を話して行き方を教えてもらって。 お礼を言おうとしたら、先輩は友達に呼ばれて行ってしまった。 「じゃあ、気を付けてな?」 振り返って言ってくれた先輩の表情、すごい優しそうで、格好良かった。 今でもそれだけは覚えてる。 そして数日後、私はその先輩をバスケ部で見付けたんだ ――― 「うん……悪い事聞いたかな?」 「ううん。もう先輩の事は大丈夫だよ」 言葉通り、もう先輩の事は綺麗に振り切る事が出来てる。 夏休みの間に、しっかり区切りをつけたんだ。 もう懐かしい思い出だったと言える自信がある。 「そっか。なら良かった……」 「……ん? 何?」 何となく、歯切れが悪い。 「何でもないよ。あっ、そういえばこの前―――」 気のせいかな? まぁ、いいか。 しばらくの間、久々に会った親友との時間を楽しんだ。 「あー楽しかった! こんなに喋ったの久々ー!」 ファミレスから出ると、朝霞がのびをした。 つられて私もやってみる。おぉ。中々気持ちいい。 そして二人で行くあてもなく適当に歩き出した。 「朝霞さー、変わったよね」 「そう? さっきも似たような事聞いたけど」 「うん。なんか、言葉じゃ言えないけど……変わったよ」 彼氏が出来たのも原因の一つだと思う。 「やっぱり、学校が良かったのかな?」 「そういえばさ、すっごい遠いところなのに、なんで受けたの?」 中学三年の半ば、朝霞に今の学校へ行く事を告げられた。 あの時は自分の事で精一杯で、自分の意思で決めた朝霞の応援しか出来なかったんだ。 それに、朝霞自身もそのテの話題は避けていたような気がする。 「……ん〜……言わなきゃ、ダメ?」 「もち。ダメ」 気になったものは仕様が無い。ここは追求させてもらおう。 それに今更の事だし、隠す理由も無いはずだ。 「……変わりたかったんだよね」 「え……?」 驚いて見る私に朝霞は恥ずかしそうに微笑んだ。 「ほら、中学の時の私って内気っていうか、真面目って感じだったでしょ? 人見知りも結構したし」 「まぁ……そうだね」 私とかには普通だったら気にはならなかったけど…… 「そんな自分が嫌で……だから……」 「誰も受けないような遠い高校に?」 「うん……新しい環境なら、新しい自分が見つかると思ったから……」 「そっか……」 驚いた。そんな事、考えてたなんて…… 「それで、変われたんだ……」 「まぁ、自分で言うのは変だけどね」 そう言って笑う朝霞の顔はびっくりするほど晴れやかで。 素直に、羨ましいと思った。 「いいなー……」 本当に凄いと思う。 変わりたい。その一心で遠い高校を一人で受けて。合格して。 たぶん、それだけでも凄い勇気だと思う。 それなのに、ちゃんと新しい自分まで見付けて。 「だからさ、後悔はしてないんだよね」 「そっか。凄いね……」 朝霞はこんなにも光り輝いているのに。 私はどうなんだろう? 何も変わってないじゃない。 それに、過去に縛られてすらいたじゃない。 縛られていただけならまだしも、谷本まで傷つけて。 ほんと……私は何をやってるんだろ? 「ほら、その顔」 「えっ?」 気付いたら、朝霞の顔が近くにあった。 「さっき私が声をかけるときも、そんな顔してた」 「嘘……」 「ほんと。どうかした?」 「…………」 言おうかどうか、どうしても悩んでしまう。 朝霞の事は信頼してる。だけど、これは私が悩んで答えを見付けないといけない気もしてる。 「……言いたくないなら無理にとは言わないけどね」 「……ごめん」 謝る私に朝霞は仕方ないな。みたいな顔をしてくれた。 会話が途切れてしまって、無言のまましばらく歩いてた。 向かいから歩いてくるカップルが見える。 二人の顔はすごい綺麗な笑顔で、直感で羨ましいと思った。 なんか、私……結構末期だな…… ボーっとしていた私の顔をいつのまにか朝霞が見ていた。 何? と聞くとなんでもないと首を振る。むー、気になるなぁ。 「さっきの話だけどさ、これだけは言わせてくれないかな?」 「ん? 何?」 すると朝霞はとびきりの笑顔で、こう言った。 「いろんな事考えちゃってる時こそ、シンプルな気持ちを大切にね」 「シンプルな……気持ち?」 「うん。もしこうだったら〜、とかそうゆうの一切関係無しで、本当にしたい事をすればいいと思うよ」 気持ち良いくらい、朝霞の言葉が胸に響く。 心にスーっと入っていく感じ。満たされたような、ほのかに温かい気持ちになる。 「……よし! 麗華、今日はいろんなトコ行こうよ!」 「あっ、待ってー!」 本当にありがとう。朝霞。 先を行く朝霞を追いかけながら、心の中でそう呟いた。 |
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