ムカツクあいつ。 | |
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破れてしまった風船は、やっぱり膨らませる事なんか出来なくて。 私とあいつの関係が元に戻る事は無かった。 だけど、新しい風船を膨らませる事なら出来るんだ。 「よ、麗華」 「おはよ、公平」 公平の朝練が無い日は電車に乗るのが待ち遠しくて仕方ない。 たとえそれが満員電車であっても私には関係ない。 「あー、マジ焦った。ネクタイ見つかんなくてさー」 「何やってんのよー」 前から二つ目の車両。一番前のドア。 いつもそこで後から乗ってくる公平を待っている。 「なー、今日さー」 「却下」 「なっ、何も言ってないだろー!」 「どーせ物理の宿題見せてー? とかでしょ」 ジト目で見る私に公平は呆れたような顔をした。 「お前さー彼氏が怒られるの見てて楽しい?」 「たまには先生に怒られた方がいいわよ」 「うへー……」 今までとすっごい似てるけど、少し違う日常。 本当に、幸せだ。 「きゃっ……」 電車が揺れて、谷本に抱きつくような形になってしまった。 ……は、恥ずかしい……! 「顔が赤いぞー」 「……うるさい……」 公平が指で私の頬をつつく。 あーもー。何から何までが嬉しくてたまらない。 学校に着いたらまた、ユキ達に茶化されるんだろうなー。 ふと、そんな事を思う。 でも、ま。いいか。 「公平ー?」 「何だー? やっと宿題見せてくれる気になったか?」 一度、破れた風船は二度と膨らまない。 もし同じような風船を膨らませたって、似ているってだけで、別物だと思う。 だから。 「んー……考えといてあげる」 今までとすっごい似てるけど、少しだけ違う……私達の風船。 まだ、膨らみ始めたばかりだけど。 今度こそ、迷わない。 「公平?」 「んー?」 「……やっぱりなんでもない」 「なんだよ? それ」 ……公平、大好きだよ。 二度とこの風船を失わないようにと、ギュッと公平の手を握った ――― ムカツクあいつ。 - End - |
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